まぐろぐ

ゆるゆる備忘録。

今週のお題「私の好きなアイス」

今週のお題「私の好きなアイス」

 

好きなアイスというか、アイスで思い出した微妙な経験をひとつ。

 

もう時効だと思うので書くことはよしとしよう。

小学生の夏休みの話である。

 

小学生の夏休みに出される宿題として、必ずあるものと言えば、自由研究だろう。例えば朝顔の観察日記や昆虫の飼育記録といったような、小学生が自分で決めたテーマを、それぞれ思い思いに画用紙にまとめて提出するあれである。

 

私は自由研究がとても億劫だった。他の宿題と違って1日かければ終わるものじゃないからだ。こう書くと、計算ドリルやら工作やらを夏休み最後まで溜めてやっていたのかと思われそうだが、私はむしろその逆で、早めに宿題を片付けるタイプだった。ドリル系は7月末にはほぼ終了し、ものづくりは大好きなので、何日かかろうが苦ではなかった。

 

しかし、自由研究は違う。まずテーマを考えなければならないし、何日かは研究に費やさなければならない。1日で研究してまとめてやったぜ!という同級生の猛者もいたし、私自身もそうすればよかったと思うのだが、そこは「きちんとやりたい」という謎のプライドが働いてできなかった。それに私が億劫だったのは、自由研究のテーマを考えて研究することで、画用紙にまとめる作業は好きだった。だから研究が終わりさえすれば、あとはほかの宿題と同じようにスムーズに終えられた。

 

ある夏休み、自由研究のテーマを考えるのが嫌で、ついにインターネットを召喚した (自分でテーマを考えていない時点でもうすでに暗雲立ち込めていたのかもしれない)。

検索ワードは「夏休み 自由研究 テーマ」みたいな感じである。そこで出てきたのが、「1ヶ月でできる氷の研究」というものだった。種類の異なる液体の凍り方や、内部に白い濁りのない透明な氷を作るといったことを毎日ひとつずつ研究していくものだ。そのラストの30日目の研究が、「冷凍庫を使わず、氷と塩でアイスを作る」というもので、その斬新さにものすごく惹かれた。

 

29日目まで順調に研究は進み、ついに30日目のアイス作りを迎えた。私は意気揚々と、家で一番大きなボール、大量の氷、塩、アイスの型、そして市販のオレンジジュースとアイスの棒を準備した。これが成功すれば、これからもアイスを作り放題だとワクワクした (冷凍庫は家にあるのだが)。頭には成功のビジョンしかなかった。

 

ボールに氷を詰め、塩を振りかける。その中にオレンジジュースを流し入れたアイスの型を入れ、アイスの棒を刺して待つだけ。作っている様子からしっかり写真を撮り、それを見て思わずにやにやした。

 

ネット情報では3時間くらいで固まるとあった。私は画用紙に、できたアイスの写真を貼るスペースを空けて、「アイス完成!」とすでに書き込んで待った。

 

3時間後。ドキドキしながら棒を持ち上げた。棒はなんの抵抗もなくするり、と抜け、先端からオレンジジュースを滴らせている。あれ、と思った。

 

固まっていないのだ。1ccも固まっていないのだ。

そんなはずは、と若干動揺しながら、ネットを検索する。固まらなかった場合の対策など書かれていない。しっかり固まった美味しそうなアイスの写真しか出てこない。

 

私は部屋が暑すぎたのかと思い、クーラーの温度を下げ、氷を追加して待った。ところが、待てども待てどもアイスにはならない。信じられなかった。

せっかくの自由研究ラストの目玉企画だったのに、こんなことあるのかと絶望した。

 

絶望からふと我に返った。そういえば、私はもう画用紙に「アイス完成!」と書いたのではないか。しかもマジックで、強調の印であるトゲトゲの吹き出しまで書いている。また絶望した。

 

 

絶望の淵に立った私は何をしたか。

結局、ボールに大量の氷と、アイスの型、どう見ても固まっていないオレンジジュースに棒が刺さった写真を、「アイス完成!」の横のスペースに貼り付けたのだ (今気づいたが、冷凍庫で凍らせたものを写真に撮って貼るという考えはその時なかった)。おおげさに言うと偽装工作、夏休み最後までどうしようか悩んだが、小学生の私は後ろめたさを感じながら、そのまま自由研究を提出した。思えばこれが初めて「後ろめたさ」という感情を知った瞬間だったのかもしれない。

そしてこの時、研究なんてやるもんじゃないな、と小学生ながらに思った。

 

後に大学院生として、研究のはしくれみたいなことをするのだが、この時の私は知る由もない。ちなみに、小学生の私の後ろめたさは相当だったようで、大学院に進学を決めた時、偽装工作だけはやめようと心に誓ったくらいである。

 

いつか冷凍庫なしのアイスを作って、この後ろめたさを消化させてあげたいと思う。